事業の仕組み:木の買い上げと加工、流通
事業の拠点となる「せどやま市場」では、毎週木曜日に、山から切り出された原木材を受け入れます。登録林家さんが自ら伐採・搬出した木を計量し、月単位で集計して、地域通貨「せどやま券」を支払います。
受け入れた原木は種類によって用途を選別し、必要に応じて加工し、販売しています。最も販売量の多いのは薪で、薪ストーブユーザーのほか、温泉施設のボイラーや、パン屋の石窯やレストランの薪オーブンで使われています。材は薪以外にも、シイタケのほだ木や、家具材などにも使われます。
薪などの販売によって得られた収入を財源として、月に一度、職員が商店を回って、せどやま券と現金を交換します。また、せどやま市場の運営も、材の販売収入によって賄われています。
事業をはじめたきっかけ:里山をとりもどしたい.
里山の資源を使わなくなった事で、芸北の森には低木が茂り、人と野生動物の境界が曖昧になりました。里山からは草花が減り、田畑は獣に荒らされ、美しい田園風景が失われつつありました。美しく豊かな里山を取り戻し、境界を明確にして野生動物と共存するため、この「芸北せどやま再生事業」が始まりました。
芸北せどやま再生事業の目指すもの:4つの「E」視点
事業を通じて「木の伐採促進による里山の管理推進(Ecology)」、「せどやま券による地域の経済循環と木材販売を通じた外部からの経済流入(Economy)」、「木質バイオマス燃料への転換による再生/持続可能なエネルギー利用の促進(Energy)」が進んでいます。また、地域の自然・経済・資源利用の重要性を伝えるため、小学校では児童が伐採・搬出・通過の利用を体験する「せどやま教室(Education)」を継続的に実施しています。
地域の自然と輝きを未来へ伝えるために、昔からこの地域で行われてきた「薪炭林の利用」に学んだ取り組みが、芸北せどやま再生事業です。
名前の由来
芸北では家の裏山を「せどやま(背戸山)」と呼びます。せどやまは、日常的に薪や草などの資源を得る場であり、生活に欠かせないものでした。利用され、整備されたせどやまに咲くササユリは、今でもふる里のシンボルです。
次の課題:社会全体として里山を利用・管理するしくみづくり
芸北では、せどやま市場での木の買上と加工、流通を通じて、山林所有者自身による里山の整備が進みました。しかしそれ以上に、色々な理由により、山の持ち主自身が管理できない山が、芸北にはたくさんあります。行政による管理支援が始まった針葉樹林に対して、広葉樹の里山管理は所有者にすべて任されています。所有者自身が管理しきれない山では、過疎化や高齢化の進行とともに、相続にともなって里山の放棄や土地の散逸といった問題が顕在化してくると予測されます。個々の山林所有者だけに里山の利用や管理を委ねるのではなく、社会全体として里山を利用しながら管理できるしくみを作ることが、次の課題です。
解決のために:里山サブスクリプション
これまでにせどやま市場は、里山から切り出された木材の流通と利用を通じて、里山の利用を促進してきました。木材という「資源」は、ひとつの重要な生態系サービスですが、里山はもっと多面的な機能を持つ生態系です。その機能を活かしていくために、せどやま市場では「里山が持つ多面的機能を利用する権利」の流通を推進します。
山林の所有者から、里山の利用や管理についての要望と、面積や位置などの山林情報を、せどやま市場が聞き取ります。その情報をもとに、山林を利用したい人や事業体とのマッチングを行います。利用内容は材木の伐採だけでなく、しいたけ栽培、山菜採り、キャンプなどの遊び場づくり、炭焼きなど、さまざまな用途が想定されます。
里山を社会全体の共創資産として捉え、自然と人との関係性を紡ぎ治していくことが、私たち西中国山地自然史研究会の役割です。